経理部門の改善 › AI利用ルール活用案

AI利用ルールの「やってよいこと」を、経理の作業ごとの具体例集にして、迷わず使える範囲を広げる

「禁止事項」中心になりがちなAI利用ルールに対して、経理の作業(仕訳の科目候補、突合、集計、文書の下書きなど)ごとに「この作業で、これを渡して、これをさせてよい。ここから先は人」を1行ずつ書いた具体例集をAIに下書きさせ、部員が「これは使っていいのか」で止まらないようにする方法です。具体例の下書きはAI、渡してよい範囲と人の側に置く判断は経理責任者、例集の承認は責任者。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★☆☆☆ 使う道具チャット型AI

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理部門のAI利用ルールは1枚にまとめ、四半期の見直しもしています。それでも、部員からこう聞こえてきます。

  • 「これは使っていいの?」で止まって、結局使わない。ルールは「渡してはいけないもの」は書いてあるが、「これはやっていい」が少ない。
  • 使っている人と使っていない人の差が大きい。使っている人は自分の判断で範囲を決めている。
  • 「AIに任せる/人が判断する」の線が、作業ごとに違うのに、ルールは一般論。仕訳の科目候補と、監査法人への回答では、任せる範囲が全然違う。
  • 新しい人が、何から使えばよいか分からない。

ルールを緩める話ではありません。この記事でやるのは、作業ごとに「やってよいこと」を具体例にして、迷わず使える範囲をはっきりさせることです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 経理の作業を、AIを使いそうな順に20ほど書き出す … 責任者と部員。
(b) 作業ごとに、「渡してよいもの(置き換え後)/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法」の4項目を1行ずつ書く … AIに下書きさせ、責任者が直す。
(c) 例集を部員に配り、「この例のとおりなら、聞かずに使ってよい」と伝える … 責任者。
(d) 例にない作業は、聞いてから使う。聞かれた作業は、次の四半期に例に足す … 責任者。
(e) 例集は1枚のルールの「別紙」として、ルールと一緒に見直す … 責任者。

ここはAIを使わない

渡してよい範囲と、人の側に置く判断を決めること。AIは「一般的にはここまで任せられます」と書きますが、この会社で何を社外秘とし、何を人の責任とするかは責任者が決めます。AIの下書きは、責任者が1行ずつ直してから配ります。それから、例集を作るためにAIに渡すのは、作業の名前と一般的な説明だけ。実際の資料や数字は渡しません。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 作業ごとの4項目(渡してよいもの/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法)の下書き
  • 「ここから先は人」が抜けている作業の指摘
  • 作業の間で、同じ種類の情報の扱いが食い違っている箇所の指摘
  • 例集の書式(1作業1行、4列)
人が判断する
  • 渡してよい範囲(責任者、会社の情報の扱いに沿って)
  • 人の側に置く判断の線(責任者)
  • 例集の承認と配布(責任者)
  • 例にない作業の扱いと、例への追加

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 作業の一覧と、ルールの1枚

作業の名前と1行の説明(20作業)。ルールの1枚の本文(渡してはいけないものの定義)。実際の資料・数字・取引先名は渡しません。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。渡すのは作業の名前とルールの本文だけで、実際の資料や数字は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理部門の責任者です。AI利用ルールの別紙として、経理の作業ごとに「やってよいこと」の具体例集を作りたいと考えています。読み手は経理部員(AIをまだ使っていない人を含む)です。 【事実/入力】 ・以下に、経理の作業20個(名前と1行の説明)を貼ります ・以下に、現在のAI利用ルールの本文(渡してはいけないものの定義を含む)を貼ります ・渡してよい範囲と、人の側に置く判断は、私が最終的に決めます 【依頼】 ①作業ごとに、「渡してよいもの(ルールの定義に沿って置き換えた後のもの)/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法」の4項目を1行ずつ下書きしてください ②「ここから先は人」が書けない作業があれば、書かずに指摘してください ③作業の間で、同じ種類の情報(取引先名、金額、個人名)の扱いが食い違っている箇所を指摘してください ④例集の先頭に置く「この例のとおりなら聞かずに使ってよい。例にない作業は聞いてから」の案内文を3行以内で書いてください 【出力の型】 ①:表:作業/渡してよいもの/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法 ②:箇条書き ③:表:情報の種類/作業A の扱い/作業B の扱い ④:案内文 【禁止事項】 ・ルールの定義で「渡してはいけない」とされているものを「渡してよい」に含めないでください ・判断(会計処理・支払の可否・与信など)を「させてよいこと」に含めないでください ・貼っていない作業を足さないでください

往復1回目 ― AIが「判断」を任せる側に書いた

AIの初稿

作業「経費の科目の候補」の「させてよいこと」に、「過去の仕訳から科目の候補を出し、最も適切な科目を選ぶ」と書かれていた。

ここが問題

候補を出すまでは任せてよい。「最も適切な科目を選ぶ」は判断で、人の側です。禁止事項に書いていてもこうなります。この1行が例集に残ると、部員は「選ぶところまでAI」と読みます。

追加で出した指示

「『選ぶ』を『させてよいこと』から削除し、『ここから先は人』に『候補から科目を選ぶ』を書いてください。他の作業でも、選ぶ・決める・判定するが『させてよいこと』にあれば同様に直してください。」

修正版

20作業の表。「選ぶ・決める・判定する」が7作業で「ここから先は人」に移った。②は「ここから先は人」が書けない作業が0。③は「取引先名」の扱いが、突合の作業では「記号に置き換え」、文書の下書きでは「そのまま」と食い違い。

人が最後にやること

③の食い違いは、責任者が「文書の下書きでも記号に置き換え、送る前に人が戻す」に揃えます(社外文書の3点確認と同じ)。20行を1行ずつ読んで直し、配ります。

往復2回目 ― 「確認の方法」

AIの初稿

「確認の方法」の列が、多くの作業で「出力を目視で確認する」だけになっていた。

ここが問題

間違いではないが、「目視で確認」は何をどう確かめるかが書かれていないので、確認したことになりません。集計なら件数と合計、文書なら事実と約束と数字、と作業ごとに違います。

追加で出した指示

「『目視で確認』を、作業ごとに『何を、何と比べて確かめるか』に書き換えてください。表や集計は件数・合計・抜き取り、文書は事実・約束・数字、のように。」

修正版

確認の方法が作業ごとに具体的になった。

人が最後にやること

確認の方法は、既にある表の3点と文書の3点に揃えます。例集は、ルールの1枚の別紙として配り、「例のとおりなら聞かずに使ってよい」と責任者が部会で伝えます。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 例集を配っても使われない … 20作業のうち、一番簡単な3作業を選んで、部会で一緒にやります。例集は読むものではなく、やるもの。
  • 例にない作業の質問が多い … よいこと。質問された作業を四半期ごとに例に足します。質問が減ったら例集が育ったということ。
  • 例集とルールの1枚が矛盾する … ルールが上位。例集を直します。矛盾は四半期の見直しで見つけます。
  • AIがまた判断を任せる側に書く … 人の側に移す。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 例集の「させてよいこと」に、選ぶ・決める・判定するが残っていないか。
  2. 「渡してよいもの」が、ルールの1枚の定義と矛盾していないか。
  3. 「これは使っていいの?」の質問が、例集を配る前より減ったか。減っていなければ、例が実際の作業に合っていない。
  4. 使っている人と使っていない人の差が、縮まったか。

7. 注意点

例集を作るために実際の資料や数字をAIに渡しません。作業の名前とルールの本文だけ。社内ルールで確認してください。
渡してよい範囲と人の側の線は、責任者が決めます。AIの下書きを、責任者が1行ずつ直してから配ります。
例集はルールを緩めるものではありません。ルールが上位で、例集はその範囲の中の具体例。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「これは使っていいの?」が、例集を見て自分で答えられます。
  • 使う人と使わない人の差が、例集の範囲で縮まります。
  • 「ここから先は人」が作業ごとに書かれ、判断が人の側に残ります。
  • 例にない作業の質問が、四半期ごとに例集を育てます。
明日の仕事で試すこと
  • 自分が今週やる作業を1つ選び、「渡してよいもの/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法」の4つを書いてみる
  • 「ここから先は人」が書けなければ、その作業はまだAIを使う段階ではない
  • 書けたら、それが例集の最初の1行

応用 ― 難易度を上げる場合

ルールの1枚は経理部門のAI利用ルールを、1枚で決める、四半期の見直しはAI利用ルールを、四半期ごとに「使った場面・困ったこと・変えること」の一覧で見直すへ。ツールごとの設定の確認は使っているAIツールごとに、「入力が残るか・誰が見られるか・消し方」を1枚の一覧にする。