AI利用ルールの「やってよいこと」を、経理の作業ごとの具体例集にして、迷わず使える範囲を広げる
「禁止事項」中心になりがちなAI利用ルールに対して、経理の作業(仕訳の科目候補、突合、集計、文書の下書きなど)ごとに「この作業で、これを渡して、これをさせてよい。ここから先は人」を1行ずつ書いた具体例集をAIに下書きさせ、部員が「これは使っていいのか」で止まらないようにする方法です。具体例の下書きはAI、渡してよい範囲と人の側に置く判断は経理責任者、例集の承認は責任者。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理部門のAI利用ルールは1枚にまとめ、四半期の見直しもしています。それでも、部員からこう聞こえてきます。
- 「これは使っていいの?」で止まって、結局使わない。ルールは「渡してはいけないもの」は書いてあるが、「これはやっていい」が少ない。
- 使っている人と使っていない人の差が大きい。使っている人は自分の判断で範囲を決めている。
- 「AIに任せる/人が判断する」の線が、作業ごとに違うのに、ルールは一般論。仕訳の科目候補と、監査法人への回答では、任せる範囲が全然違う。
- 新しい人が、何から使えばよいか分からない。
ルールを緩める話ではありません。この記事でやるのは、作業ごとに「やってよいこと」を具体例にして、迷わず使える範囲をはっきりさせることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 経理の作業を、AIを使いそうな順に20ほど書き出す … 責任者と部員。
(b) 作業ごとに、「渡してよいもの(置き換え後)/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法」の4項目を1行ずつ書く … AIに下書きさせ、責任者が直す。
(c) 例集を部員に配り、「この例のとおりなら、聞かずに使ってよい」と伝える … 責任者。
(d) 例にない作業は、聞いてから使う。聞かれた作業は、次の四半期に例に足す … 責任者。
(e) 例集は1枚のルールの「別紙」として、ルールと一緒に見直す … 責任者。
渡してよい範囲と、人の側に置く判断を決めること。AIは「一般的にはここまで任せられます」と書きますが、この会社で何を社外秘とし、何を人の責任とするかは責任者が決めます。AIの下書きは、責任者が1行ずつ直してから配ります。それから、例集を作るためにAIに渡すのは、作業の名前と一般的な説明だけ。実際の資料や数字は渡しません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 作業ごとの4項目(渡してよいもの/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法)の下書き
- 「ここから先は人」が抜けている作業の指摘
- 作業の間で、同じ種類の情報の扱いが食い違っている箇所の指摘
- 例集の書式(1作業1行、4列)
- 渡してよい範囲(責任者、会社の情報の扱いに沿って)
- 人の側に置く判断の線(責任者)
- 例集の承認と配布(責任者)
- 例にない作業の扱いと、例への追加
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 作業の一覧と、ルールの1枚
作業の名前と1行の説明(20作業)。ルールの1枚の本文(渡してはいけないものの定義)。実際の資料・数字・取引先名は渡しません。
往復1回目 ― AIが「判断」を任せる側に書いた
作業「経費の科目の候補」の「させてよいこと」に、「過去の仕訳から科目の候補を出し、最も適切な科目を選ぶ」と書かれていた。
候補を出すまでは任せてよい。「最も適切な科目を選ぶ」は判断で、人の側です。禁止事項に書いていてもこうなります。この1行が例集に残ると、部員は「選ぶところまでAI」と読みます。
「『選ぶ』を『させてよいこと』から削除し、『ここから先は人』に『候補から科目を選ぶ』を書いてください。他の作業でも、選ぶ・決める・判定するが『させてよいこと』にあれば同様に直してください。」
20作業の表。「選ぶ・決める・判定する」が7作業で「ここから先は人」に移った。②は「ここから先は人」が書けない作業が0。③は「取引先名」の扱いが、突合の作業では「記号に置き換え」、文書の下書きでは「そのまま」と食い違い。
③の食い違いは、責任者が「文書の下書きでも記号に置き換え、送る前に人が戻す」に揃えます(社外文書の3点確認と同じ)。20行を1行ずつ読んで直し、配ります。
往復2回目 ― 「確認の方法」
「確認の方法」の列が、多くの作業で「出力を目視で確認する」だけになっていた。
間違いではないが、「目視で確認」は何をどう確かめるかが書かれていないので、確認したことになりません。集計なら件数と合計、文書なら事実と約束と数字、と作業ごとに違います。
「『目視で確認』を、作業ごとに『何を、何と比べて確かめるか』に書き換えてください。表や集計は件数・合計・抜き取り、文書は事実・約束・数字、のように。」
確認の方法が作業ごとに具体的になった。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 例集を配っても使われない … 20作業のうち、一番簡単な3作業を選んで、部会で一緒にやります。例集は読むものではなく、やるもの。
- 例にない作業の質問が多い … よいこと。質問された作業を四半期ごとに例に足します。質問が減ったら例集が育ったということ。
- 例集とルールの1枚が矛盾する … ルールが上位。例集を直します。矛盾は四半期の見直しで見つけます。
- AIがまた判断を任せる側に書く … 人の側に移す。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 例集の「させてよいこと」に、選ぶ・決める・判定するが残っていないか。
- 「渡してよいもの」が、ルールの1枚の定義と矛盾していないか。
- 「これは使っていいの?」の質問が、例集を配る前より減ったか。減っていなければ、例が実際の作業に合っていない。
- 使っている人と使っていない人の差が、縮まったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「これは使っていいの?」が、例集を見て自分で答えられます。
- 使う人と使わない人の差が、例集の範囲で縮まります。
- 「ここから先は人」が作業ごとに書かれ、判断が人の側に残ります。
- 例にない作業の質問が、四半期ごとに例集を育てます。
- 自分が今週やる作業を1つ選び、「渡してよいもの/させてよいこと/ここから先は人/確認の方法」の4つを書いてみる
- 「ここから先は人」が書けなければ、その作業はまだAIを使う段階ではない
- 書けたら、それが例集の最初の1行
応用 ― 難易度を上げる場合
ルールの1枚は経理部門のAI利用ルールを、1枚で決める、四半期の見直しはAI利用ルールを、四半期ごとに「使った場面・困ったこと・変えること」の一覧で見直すへ。ツールごとの設定の確認は使っているAIツールごとに、「入力が残るか・誰が見られるか・消し方」を1枚の一覧にする。