初めて借入の契約更新を担当するとき、契約書・過去のやりとり・返済実績から「聞かれること・決めること」の一覧を作る
前任者から引き継いだ借入の契約更新について、契約書の条件の一覧・前回の更新時の銀行とのやりとり(要旨)・返済と利払いの実績から、「銀行から聞かれそうなこと」「こちらが更新前に決めること」「前回と状況が変わった点」をAIに整理させ、責任者との打ち合わせの材料にする方法です。整理はAI、更新の方針・条件の交渉・銀行への説明は財務責任者、金利や条件の判断は人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。資金繰りの担当を引き継いで(来月から資金繰りを担当)半年。銀行ごとの条件の一覧を見ると、主力銀行の借入枠の更新が2か月後。前任者はもういません。
- 「更新」で何をするのかが分からない。銀行から何を聞かれ、こちらは何を決めるのか。
- 前回の更新のときのやりとりは、前任者のメールの中。読めば分かるが、40通ある。
- 契約書の条件(財務制限条項、担保、報告義務)のどれが更新に関わるのか、見当がつかない。
- 責任者に「どうする?」と聞かれても、選択肢を出せない。
更新の方針は責任者と銀行の話。この記事でやるのは、手元の資料から「聞かれること・決めること・変わった点」の一覧を作って、責任者との打ち合わせに臨める状態にすることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 手元の資料を3つに整理する … 契約書の条件の一覧(借入金の一覧から、条項の名前と要旨)、前回の更新時のやりとりの要旨(メールを日付順に、銀行名・担当者名を記号に、金額を規模に)、返済と利払いの実績(遅れの有無、条項の充足の記録)。
(b) 3つから、①前回銀行から聞かれたこと、②前回こちらが決めたこと(枠・期間・条件)と、その理由、③前回と今回で状況が変わった点(業績・借入残高・他行の条件)、④契約書の条項のうち更新に関わりそうなもの、を出す … AI。
(c) ①〜④を責任者に見せ、今回の方針と、銀行に先に伝えること・聞くことを決める … 責任者。
(d) 銀行との面談のあと、聞かれたこと・決めたことを記録し、次回の「前回のやりとり」にする … 担当者。
更新の方針、枠や金利や条件の判断、銀行への説明。AIは「前回はこうだった」までで、「今回はこうする」は責任者が決めます。AIに「金利は下げられるか」「枠を増やすべきか」を聞きません。それから、銀行名・担当者名・金額はAIに渡しません。記号と規模で。契約書の全文も渡さず、条項の名前と要旨だけ。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 前回のやりとりの要旨から、銀行から聞かれたことと、こちらが決めたことを分けて出す
- 契約書の条項の一覧から、更新に関わりそうな条項(期限・枠・条件の見直しに触れるもの)を候補として出す
- 前回と今回の状況の違いを、こちらが用意した事実の一覧から並べる
- 責任者との打ち合わせの1枚(聞かれること/決めること/変わった点)の書式
- 今回の更新の方針と条件(責任者)
- 銀行に先に伝えること・聞くこと(責任者)
- 条項の解釈(契約書の原文と、必要なら法務)
- 面談での説明と記録(担当者と責任者)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 3つの資料を記号と要旨に
契約書の条項の名前と要旨、前回のやりとりの要旨(日付順、記号)、返済・利払いの実績(遅れの有無)、今回の状況の事実(業績の方向、残高の規模の変化、他行の条件の変化)。銀行名・担当者名・金額は渡しません。
往復1回目 ― AIが「方針」を提案した
④の「決めること」の下に、「業績が改善しているため、今回は枠の拡大と金利の引き下げを求める好機です」と付いていた。
①②③の整理は使えるものでした。「枠の拡大と金利の引き下げを求める」は方針の提案で、責任者が決めることです。しかも、他行との関係や将来の資金需要を知らないAIの一言です。禁止事項に書いていてもこうなります。
「方針の提案を削除し、④の『決めること』は前回決めた項目の一覧(今回も決める項目)だけにしてください。」
①は銀行が聞いたことが9項目(業績の見通し、資金の使途、他行の借入状況、担保の評価、など)。②はこちらが決めたことが4項目(枠・期間・金利の種類・報告の頻度)。③は更新に関わりそうな条項が5つ。④は1枚。
責任者と1枚を見ながら、今回の方針(枠は据え置き、期間は同じ、報告の頻度を減らせないか聞く)を責任者が決めます。③の5つの条項は、契約書の原文を責任者と読み、1つは法務に確認。
往復2回目 ― 「条項を満たしているか」
③の財務制限条項について、「業績の方向が改善のため、条項は充足していると考えられます」と付いていた。
条項の候補はよい。「充足している」は条項の判定で、実際の数値と条項の定義を照らして人が確かめることです(財務制限条項の確認)。AIは数値も定義の全文も見ていません。
「充足に関する記述を削除し、③は表だけにしてください。」
表だけになった。
財務制限条項の充足は、別の手順で数値を当てて確かめ、その結果を面談の前に責任者が持ちます。面談のあと、聞かれたこと・決めたことを記録に残し、次回の「前回のやりとり」にします。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 前回のやりとりのメールが残っていない … 銀行の担当者に「前回の更新の際の資料を送ってもらえますか」と頼みます。銀行の側には残っています。
- 契約書の条項が多くて、要旨を作るのが大変 … 条項の見出しだけを先に一覧にし、③で候補になった条項だけ要旨を書きます。
- 責任者も更新の経験がない … 銀行に「更新の手続と、事前に用意するもの」を先に聞きます。聞くこと自体は恥ではありません。
- AIがまた方針や判定を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 面談で銀行から聞かれたことが、①の一覧に入っていたか。入っていなかったものを次回の一覧に足したか。
- 今回決めたことに、責任者の判断と理由が記録されているか。
- 更新に関わる条項が、契約書の原文で確かめられたか。
- 1枚に、AIの方針の提案や条項の判定が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 初めての更新でも、「聞かれること・決めること」を持って責任者と話せます。
- 前任者のメール40通が、1枚の一覧になります。
- 今回の記録が、次回の「前回のやりとり」になり、引き継ぎが要らなくなります。
- 更新に関わる条項が、面談の前に確かめられます。
- 一番近い更新の借入を1つ選び、契約書の条項の見出しを書き出す
- 前回の更新のメールを日付順に並べ、銀行から「聞かれた」文だけに印を付ける
- 印の数が、今回聞かれることの数の目安
応用 ― 難易度を上げる場合
資金繰りの引き継ぎは来月から資金繰りを担当してください、と言われたとき、財務制限条項は借入契約の財務制限条項を、決算前に確認するへ。銀行への決算説明は取引銀行への決算説明の資料を、去年の資料と今年の数字から「変わった項目と理由」だけ先に整理して作る。